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かわさきマイスター紹介

広告看板製作 浅水屋 甫さん

デジタル時代に筆一本、手描きの書体にこだわる名人芸

提供:川崎市
浅水屋さんはコンピューター全盛の中、筆一本であらゆる字体を描いていく看板業の熟練者です。小さい看板から石油プラントのタンクの壁面画、店舗の看板、ポスターなどを手作業で製作していく、「匠」という言葉が似合う貴重な技能を持っています。各種コンクールにも応募し、挑戦意欲も旺盛な職人です。
プロフィール
浅水屋 甫さん

地元の中学を卒業後、看板店に就職し住み込みで技術を覚える。昭和28年、先輩を頼って上京、同じ看板店で修行を積む。その後他の看板店に移り、さらに腕を磨き独立、現在に至る。
幸区在住。浅水屋カンバン店自営。
これは、浅水屋さんの技能を紹介する動画です。クリックしてご覧ください。

浅水屋さんについて教えてください

始めるきっかけは何でしたか?

小さい頃から絵を描くのが得意で小学校1年生の時、図画の時間に先生から花丸(優)をもらってうれしくなり、これは面白いなと思ったのが、そもそもの始まりですかね。小3になると今度は書道を習い始め、筆を真っ直ぐに立てて書く訓練を受けました。細かいことが好きだったんですね。中学を卒業して塩釜の看板屋に丁稚奉公。5、6年は辛抱しなさいといわれましたが、2年くらいで飛び出し、東京に出ました。先輩が勤めていた錦糸町の看板店に紹介されて、同じように住み込みで3年ほど奉公。そこで垂れ幕を書いたり高い所での作業を覚えました。もうこの時、石油タンクに文字書いていましたね。その後独立しましたが、最初は店を持たず塗装屋さんから注文を請けて現場に出かける職人稼業でした。当時は道具さえあれば、電話1本で仕事ができた時代でしたね。

やっていて一番面白いと感じることは何ですか?

作業をしているところの写真を見せていただきました。
作業をしているところの写真を見せていただきました。
やっぱり、仕事が終わってお客さんから「良く出来ましたね」と誉められることですね。ホッとすると同時に、ああ良かったと思います。これまで、いろいろな現場をこなしてきましたが、職人としてお客さんに喜ばれることこそ、それまでの苦労に反比例する、面白さを一番感じる時ではないでしょうか。それと自分の描いたものが、いつまでも残っていることですね。何年か経って久しぶりに現場を見に行ったら、もう無くなっていたというと本当に寂しいですね。難しいのは人の顔を描くことです。塗り潰すわけにいかないし、元の絵(下絵)を崩さないように、最初薄く下塗りし、元絵を見ながら正確に仕上げていきます。

長年、継続して技能研鑽に努めることが出来たのはなぜですか?

木製の看板もご自身で彫り上げます。
木製の看板もご自身で彫り上げます。
子ども頃から絵を描いたり文字を書くのが好きだったわけですから、そういう好きなことを仕事としてやっているうちに、自然に腕が磨かれていったんだと思います。「好きこそ物の上手なれ」といいますが、まったくその通りです。仙台で丁稚奉公していたころ、親方から「見て覚えろ」と口酸っぱく言われましたが、それが身体にしみついて、単に好きで終わるのではなく、他人の技術も吸引して技能を磨く職人気質を高めていったのではないでしょうか。

苦労したことはありますか?

大型タンクに文字を描く。高い所の仕事も平気だそうです。
大型タンクに文字を描く。高い所の仕事も平気だそうです。
中国から贈られた屋形を組み立てる時、屋台に描かれた中国特有の細かい花びらや鳥の絵を復元する時は苦労しましたね。傷んでいる元絵を手描きで補修していきますから時間はかかるし、ただでさえ高い屋台に、またはしごをかけて高所で作業しなければなりませんから大変でしたが、無事復元できた時はホッとしましたね。石油・ガスタンクではゴンドラやロープを使って地上何十メートルかの高さで仕事しますから、寒い季節や風の強い日は大変です。足場となる現場の鉄骨が腐ったりしていて危ないので、補修工事をしてから始めることもあります。

自分が誇れる、自信のある卓越した技能を教えてください

その場で実演。<br>この角度から見たときに綺麗に見えるように計算されています。
その場で実演。
この角度から見たときに綺麗に見えるように計算されています。
やっぱり描くということですか。絵にしろ文字にしろ、どんな高い場所でも、狭い場所でも注文通りに仕上げる自信があります。大きな球形のタンクに文字や絵を描くのは何でもありません。大型クレーンに文字を書いたり、石油タンクやガスタンクなど、全国各地の基地に出かけましたが、最近はこういう仕事も少なくなりましたね。高い所は怖くないし、逆に気持ちいいです。もっとも、ある現場で石油タンクにツバメの絵を描いている時、落っこちて大怪我をしたこともありますが…。昔はそれほど安全基準が厳しくなく、現場もあまりうるさくなかったから、逆に事故につながっていくケースも結構あったようですね。今はそんなことはありませんが。

ものづくりについて教えてください

ものづくりの魅力を教えて下さい。

「看板業は趣味です」と語る浅水屋さん。
「看板業は趣味です」と語る浅水屋さん。
今は何でもコンピューターで処理してしまいますが、手描きの魅力にはかないませんね。「看板は見かけのもの」です。近くで見ると手描きで粗(あら)のあった方が、遠くから見るときれいに見えます。コンピューターで描いたものは、みな同じ枠の中に納まってしまって面白くありません。それにコンピューターだと最初にデータが揃っていないと仕事に入れませんが、手描きの場合は直接現場に行って作業を進めることになりますので、その時の状況に合った臨機応変の仕上げができます。それだけ自分の意にかなった仕事ができる楽しみがあります。

かわさきマスターに認定されて良かった点を教えて下さい

ありがたいと思っています。お陰で人様の見方も変わってきて、営業的にもメリット1杯です。新聞記事を見て注文が来たこともあります。

後継者を育成するため、何に取り組まれていらっしゃいますか?

娘が後を継いでいますが、小さい頃から刷毛を持ったりして私の仕事を見ながら自然と覚えていったようです。小6の時、文集に「将来は父の跡を継ぐ」と書いたそうですから、その頃からこの道に進むと心に決めていたのでしょう。グラフィックデザイン系の専門学校を卒業して、私とはまた違う新しいものを取り入れています。

これから「ものづくり」を目指す方たちへアドバイスをお願いします

浅水屋さんが細かいぼん字で書いた般若心経。写経も趣味のうちだそうです。
浅水屋さんが細かいぼん字で書いた般若心経。写経も趣味のうちだそうです。
いろいろなものに興味があって、学ぶ意欲が大事だと思います。基本は、好きだということですね。それが仕事に直結すれば最高です。そういう、仕事として好きなこと以外に、ほかに趣味があってもいいでしょう、気分転換になりますから…。私は細かい梵字 (ぼんじ)を書くのが趣味で、般若心経の写経などして楽しんでいます。
看板屋を目指すなら、バランス感覚とデザイン的な素質も必要でしょう。日ごろ街の中の看板をよく観察することも大事です。

最後に、これからの活動について教えて下さい。

表札もお手の物です。
表札もお手の物です。
趣味が仕事になっていますから、生涯現役の気持ちでいつまでもこの仕事を続けていきたいと思っています。古木や銘木板に文字を彫刻して作品に仕上げたり、道具を持って行く先々で看板や表札などの注文を請ける地方巡業にも出たいですね。

どうもありがとうございました。
取材中、実際に看板を描く作業を見せていただきました。ものの数分、それこそアッという間に「匠」という文字を書き上げてしまいました。スピードもさることながら、その巧みな筆さばき、見事な書体に、匠そのもののダイナミズムを感じました。
【問合せ先】  
浅水屋カンバン店

■所在地   幸区南加瀬3-38-40
■電話    044-588-9307
■FAX         044-599-0014
■営業時間  8:00~21:00
■休み    なし(年中無休)
■e-mail      jajauma.kanban-musume@y5.dion.ne.jp